いこの読了本備忘録。

読んだ本の覚え書き、みたいな。キャラクター小説多め。※核心的なネタバレは極力避けてはいますが、苦手な方は予めご注意ください

天才遺体修復人M この夜の果てで、君を葬送る。

2018/06/23読了。

本当に美しい、ただただ美しい世界でした。

哀しくも美しい、それでいて純粋な恋愛の物語。

例えそれが世間一般から見れば「異常」で「狂った」ようにしか見えないものだったとしても、2人にしてみれば幸せだったのだから。

 

展開は冒頭のあるキャラの独白から分かってはいたのです。

ただ物語前半は、そんな不穏な空気を忘れさせてくれるくらい恋愛ものとしては和やかに(まあエンバーミングをテーマとしている以上、遺体修復のシーンは和やかでは決してあり得ないのですが、それはまあさておいて)進んでいくものだから、油断していました。

油断していたところに突然投下された、ある少女に隠されていた秘密。

そこから物語の世界は、どんどん現実世界から乖離していきます。

寧ろ、遺体修復人である「彼」が切望するあの「夜」の世界に近づいて行くといいますか。

 

この「夜」の描写が感嘆ものの美しさなのです。

決して生者では近づけない遠い世界、尊い世界。

月のような光に満たされ、そこで踊る美しい人。

小説を読んでいるのに目の前にありありとその光景が広がる描写が見事でした。

 

その世界にたどり着いてしまった2人の結末は、世間的には悲劇だったでしょう。

確かに冒頭で書かれてはいたのですが、まさかこんな展開を迎えようとは。

ただ先述どおり、彼らは間違いなく幸せでした。

彼女は望みを果たし、彼はずっと彼女と共に生きられたのですから。

最後のエピソードがまた本当に本当に泣けるほど美しくて、でもどうしようもなく哀しくて、無性に感情を揺さぶられて涙が溢れました。

物語の前半のあの空気を知っているから余計に堪えて。

 

「幸せ」はやはり他人が勝手に推し量ってはいけないのだなと切実に思いました。

悲劇であろうこの物語は、それでも彼らにしてみればハッピーエンドだったのだから。

 

そう、副題通りの物語です。

でも、主役たちにしてみれば悲劇ではないのです。

これは美しい夜に踊る二人の純愛物語なのだから。