いこの読了本備忘録。

読んだ本の覚え書き、みたいな。キャラクター小説多め。※核心的なネタバレは極力避けてはいますが、苦手な方は予めご注意ください

吉原百菓ひとくちの夢

 

 

2018/03/05読了。

本当は文庫版を買って読んだのですが、リンクは電子書籍版です。

電子書籍版しか貼れなかったので。

 

江戸は吉原が舞台の物語だが、遊女たちのドロドロとした争いとか恋愛とかの話ではない。
まず、そもそも主人公が女性ではない。
吉原にあるとある中見世で料理番として働く男性が主人公。
しかも彼が手がけるのは「菓子」
菓子専門の料理番。
もうこれだけで、この物語が如何に風変わりなものか分かっていただけるかと。

 

そのお陰というか、作者さまの人となりが作風に表れているというか、花街が舞台なのにも関わらず、この物語は終始柔らかで優しい雰囲気に満ちている。
ハートウォーミングですらある。
出てくるお菓子(無論和菓子)が総じて美味しそうだし、主人公も嫌味のないキャラだし(ミカン好きというところがまた可愛い)最初からドロドロになりようがないか。

 

基本的には連作短編集で、季節が巡りながら一人また一人と新たな仲間が増えて、次々と新しいお菓子が出てくる作り。
そのお菓子を通じて登場人物たちが癒されたり、友情や縁を育んだりと物語が展開していく。
中でも一番の見所は、主人公の作る菓子を一切食べない見世一の花魁との駆け引きだろう。

 

読んでいる途中までは、彼女が菓子を食べないのはアレルギー的な話なのか、精神的に病んで食べられなくなったのか(偏見かもしれないが花街暮らしならトラウマやら精神病やらはあり得そう)どっちだろうと思っていたが、いざ種明かしされた時は色々な意味でかなり驚かされた。
ネタバレになり過ぎるので詳細は割愛するが、それは彼女の確固たる意志によるものだった。
精神が病んでいるだなんてとんでもない。
彼女の精神の何と高貴で清廉であることよ。
しかし、呪いのようでもある。

 

そこから主人公がどう逆転するか、要は「菓子」を通じてどう彼女を癒していくか、これがクライマックスとなる。
ここで今までの伏線も回収されつつ、作中随一の傑作お菓子が登場する。
これがまた本当に美しい、そして儚い。
この菓子に込められた思い、二人が交わした約束、そしてそれからの二人……本当は色々話したいが、それこそクライマックスの根幹に触れるので、気になる方は是非読んで欲しい。
そしてそのお菓子の必然の儚さに涙して欲しい。
このお菓子に出会って、読者は初めてタイトルの意味すら分かるのだから。

 

吉原もので癒される物語を読める日が来ようとは。
かなり不思議な、でも心地のいい物語でした。

 

惜しむらくは、各話の濃度に差があるところか。
特に番頭の物語は、クライマックスに必要な伏線が多数含まれているけれど、この物語だけ(単独として完結しているにも関わらず)短いし、詳細が明らかにならない部分もあって物足りなさを感じてしまった。
他の話の閑話として組み込んだ方が個人的にはよかったように感じた。
なまじ他の話が色々考えられて組まれているから余計か。

 

蛇足な話になってしまったが、間違いなくおすすめできる作品。
読んでいると無性に和菓子かカステラが食べたくなるので、できればどちらかだけでもすぐに食べられる状態で読み進めた方が無難。
でないと、自分のように禁断症状に襲われることになる。
カステラ、食べたい。